ニュー911 GT3のシャシーは、これまでの他のポルシェ市販モデルとは異なり、純粋なモータースポーツテクノロジーを広範囲に使用しています。特にフロントサスペンションにこれが当てはまります。完全に新開発されたF1由来のダブルウィッシュボーンレイアウトは、伝説的な2005年のRSスパイダーLMP2プロトタイプにすでに使用されており、2017年にル・マンのクラス優勝を飾った911 RSRにも採用されていました。ポルシェの公道走行可能車に今回初めて使用され、優れたターンインの俊敏性、コーナリング性能、ブレーキ安定性を兼ね備えます。つまり、GTスポーツカーをさらに高速で予測可能にしながら、同時にドライバビリティーを高めます。
新しいダブルウィッシュボーン フロントサスペンションは、従来のマクファーソンスプリングストラットレイアウトに比べて多くのメリットを提供します。高圧縮下での優れたキャンバー剛性を備え、特にコーナー外側のホイールを一定してサポートします。これにより、スプリングストローク全体にわたってより大きなコーナリング力を要求することができます。同時に、ダブルウィッシュボーンレイアウトは、アーム支軸の角度の違いによりブレーキダイブの動きをほぼ解消します。硬いスプリングレートによって解決する方法もあります。そのメリットは明らかです。柔らかいスプリングは、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェなどに特有の起伏のある路面では、より敏感に反応します。斜めに取り付けられたスプリングストラットは同じ目的を果たし、ホイールは、上方向だけでなくリア方向への作用も回避することができます。
さらに、ダブルウィッシュボーン フロントサスペンションは、コーナリング時にショックアブソーバーにかかる横方向の力も除きます。横方向の力は、曲げ荷重による歪みと大きな摩擦損失の原因となります。GTロードカーのプロジェクトディレクターであるアンドレアス・プレウニンガーは、目を輝かせながら次のように説明します。「あなたが膝を曲げるエクササイズをしていて、誰かがあなたを横から押した場合、マクファーソンサスペンションを使用するとバランスが崩れます。ダブルウィッシュボーンサスペンションは肩の部分であなたを安定させるので、邪魔されることなく運動を続けることができます…」
ボールジョイントを追加したマルチリンク式リアサスペンション
シャシーのバランスを保つために、実績のあるLSA(軽量、安定、俊敏)5リンク構成リアサスペンションは、特に大きなストレスのかかるロアウィッシュボーンにボールジョイントを追加します。弾性運動学的ラバーエレメントの代わりに使用されるボールジョイントは、ほぼ遊びがなく、内側および外側ボディへの接続が特に精確です。その結果、非常にダイレクトに路面に接続します。フロントと同様に、キャンバーとスタビライザーの剛性を個別に調整して、全てのサーキットに最適なセットアップを見つけることができます。剛性の高いスプリングがヘルパースプリングでサポートされており、これは、ポルシェレーシングカーのものと同様にスプリングストロークを延ばし、スプリングレートが高いにもかかわらず、車両が最高位置にあるときも地面との接触を失わないようにします。専用のショックアブソーバーが、総合的にアップグレードされた駆動装置を補完し、ソフト特性とハード特性の間の幅を広げ、バルブシステムの応答をさらに迅速かつ精確にします。つまり、優れた日常走行の快適性と抜群のサーキット性能の間のバランスをうまく制御します。
俊敏性と安定性を向上させるリアアクスルステアリング
リアアクスルステアリングは、911 GT3の素晴らしいドライビングダイナミクスにも大きく貢献します。50km/hまでの走行速度のときは、後輪が前輪と反対の方向に最大2.0度回転し、ホイールベースを仮想的に短縮して回転半径を小さくし、駐車操作などを容易にします。同時に、コーナリング時のダイレクトなターンイン挙動も実現します。一方、80km/hを超える走行速度のときは、後輪が、前輪と同じ方向に最大2.0度回転します。その結果、ホイールベースを仮想的に6mm長くして、コーナリング時の安定性を高めます。50~80km/hの走行速度のときは、リアアクスルステアリングは状況に応じて応答します。
ポルシェは先代同様に、オプションでニュー911 GT3のフロントアクスルリフトシステムを提供しています。50km/hまでの走行速度のときは、スイッチを押すと最低地上高が30mm増加し、底面を擦ることなくスピードバンプを乗り越えることができます。新しいインテリジェント「スマートリフト」メモリー機能は、障害物の位置を保存し、車がこの場所を通るたびに自動的に車高を持ち上げます。
高性能の特徴を強化するアクティブシャシーシステム
ポルシェスタビリティーマネジメントは、控えめにニュー911 GT3を保護します。高性能スポーツカーのダイナミックな特徴にふさわしい専用の特にスポーティーな設定は、アシスタンスで介入する前に、より大きな自由を許容します。ポルシェは、原則として、電子制御システムを使用しなくても可能な限り最高の性能と安全なハンドリングをすでに兼ね備えているモデルにシャシーを設定しています。ポルシェの全てのGTカーと同様に、ニュー911 GT3のPSMは、完全に解除することも、トラクションコントロール(TC)を残して解除することも可能です。これにより、サーキット走行などにおいて最大限のポテンシャルを活用することができます。
可変ダンパーコントロールシステムのポルシェアクティブサスペンションマネジメントは、クローズドサーキットと日常走行の両方でメリットがあります。GT3専用の構成は、911カレラより車高が20mm低く設定されています。2つの制御マップを選択することが可能で、「スポーツ」は長距離走行に十分なサスペンションの快適性を実現し、「トラック」はスポーツ走行でボディの動きを安定したレベルに低減します。
重量最適化と高い負荷抵抗を備えたブレーキシステム
ニュー911 GT3の強力なブレーキシステムは、改善された性能に確実に対処することができます。内部ベチレーション灰鋳鉄製ブレーキディスクが標準装備されており、クロスドリル加工の代わりにディンプル加工が施されています。つまり、主にブレーキダストを取り除く働きをする穴が円錐形の開口部を備えており、より高い材料強度と強力な制動作用が得られます。フロントディスク径は、先代の380mmを大きく上回る408mmです。薄いフリクションリングは17%軽量で、スポーツカーの俊敏性についてバネ下重量と回転質量にメリットをもたらします。
2つの専用の空気経路がフロントブレーキの冷却を最適化します。上部経路はブレーキ内部を冷却し、下部経路はアンダーボディの空気の流れを利用してフリクションリングを冷却します。フリクションリングを締め付けるのは剛性の高い対向6ピストン式アルミニウム製モノブロック固定キャリパーです。キャリパーは迅速に応答して、高負荷時にも精密な圧力ポイントを提供します。リアブレーキのディスク径は380mmで、フロント同様にレッドに塗装された対向4ピストン式モノブロックキャリパーを備えます。ハイグロスブラックのキャリパーも用意されています。初めて銅を使用しないブレーキパッドが採用されています。
オプション装備されるポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)
ニュー911 GT3には、ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)システムがオプション装備されます。特に要請がない限り、ブレーキキャリパーはイエローで塗装されます。使用されているセラミックコンポジット材料は高い熱負荷性能を備えながら、大幅な軽量化を可能にします。PCCBブレーキディスク(フロント径410mm、リア径390mm)は、同等の灰鋳鉄製コンポーネントよりも50%軽量です。その結果、バネ下重量と回転質量をさらに削減してドライビングダイナミクスに大きなメリットをもたらします。
ダブルミックスタイヤを採用した軽量鍛造ホイール
さらにポルシェは、911 GT3ホイール&タイヤに関して新しいアプローチを採用しており、初めてフロントとリアに異なるサイズのホイールを装着します。以前はポルシェRSモデルの専用仕様でした。フロントは20インチ、リアは21インチのホイールを使用し、フロントのリム幅は、9.0から9.5インチに拡大されています。それにもかかわらず、フィリグリーでありながら非常に頑丈な軽合金製鍛造ホイールは、先代のホイールよりも合計で0.8kg軽量です。とりわけ、モータースポーツから採用されたセンターロック方式を採用しながらこの重量が達成されています。標準装備の911 GT3ホイールはシルバー塗装仕上げで、サテングロスダークシルバー、ネオジム、ブラックも用意されています。オプションで、リムエッジをシャークブルーまたはガーズレッドに塗装してグレードアップすることもできます。
高性能スポーツタイヤと初めてオプション装備されるサーキットタイヤ
タイヤは、もちろんニュー911 GT3のパフォーマンスに大きな影響を与えます。パワフルなGTカーには、優れたグリップを保証する高性能スポーツタイヤ(フロント:255/35 ZR 20、リア:315/30 ZR21)が標準装備されます。4本のタイヤは全て先代よりも10mmワイドになっています。大きくなった接触面積が、コーナリング速度、トラクション、およびブレーキングにメリットをもたらします。新しいオプションとして公道認可サーキットタイヤが用意されています。ポルシェは、ディーラーネットワークを通して、911 GT3 RSに続いて911 GT3にこれらのタイヤを提供します。トレッドコンパウンドとトレッドデザインについては、特に乾燥路面での性能が重視されています。
911 GT3の新機能が、標準装備されるタイヤ空気圧モニタリングシステム(TPM)のサーキット専用モードで、以前は911 GT2 RSのみに装備されていました。このモードは、サーキット走行時にコールドタイヤとウォームタイヤのタイヤ空気圧の差を考慮します。