E-フューエルは合成液体燃料で、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から生成されます。その製造に必要な電力は、再生可能エネルギー(太陽光発電と風力発電)で発電する必要があります。ポルシェはこの燃料について集中的な研究を行っています。CO2排出量が、E-フューエル製造時に大気から取り出されたCO2の量に対応するため、E-フューエルを使用することで、内燃エンジンはほぼカーボンニュートラルな作動が可能になります。これはクローズドサイクルとして知られています。
E-フューエルは化石燃料に代わることができるため、CO2排出量を即座に低減する効果があります。入手しにくい場合、最初はE-フューエルを従来の燃料に混ぜることも可能です。その他のメリットには、既存のインフラを使用した保管と輸送が含まれます。さらに、世界の一部の地域ではすでに一般的なグリーン電力を、E-フューエルに保存して長距離を輸送することができます。
このように、CO2排出量の低減に寄与するE-フューエルは、ポルシェが追求するドライブ戦略の重要なエレメントとなります。ポルシェは、中期的に3種類のドライブシステムを提供します。純粋な電気自動車、きわめてエモーショナルな走りを実現するエンジン車、そしてゼロローカルエミッションのプラグインハイブリッド車です。そこには、純電気自動車モデルに加えて、最適化されたエモーショナルなエンジンとゼロローカルエミッションのプラグインハイブリッドが含まれます。E-フューエルは、エンジンとプラグインハイブリッドのCO2排出量を大幅に削減します。
原材料:水と二酸化炭素
E-フューエルの製造に必要な原材料は水と二酸化炭素の2つのみです。必要な水素は電気分解によって水から抽出します。このために、水に直流を通して水素を分離し、負極(陰極)に集めます。プロセスのエネルギー効率は約70%です。飲料水の供給を保護するため、持続可能なコンセプトでは生産施設を海の近くに建設し、可能であれば淡水化された海水を使用することを規定しています。プロセスチェーン内のE-フューエル1リッターあたり2リッターの水が必要です。
二酸化炭素は、ダイレクトエアキャプチャープロセスを使用して空気から直接抽出します。大型ファンがフィルターを通して周囲の空気を吹き込み、大気中に含まれる二酸化炭素がフィルターに付着します。プロセスに応じてフィルターがさまざまな物質を捕捉し、その後の処理でCO2が分離されます。こうした施設は、カナダやスイスなどですでに稼働しています。CO2の周囲の空気からの削減と回収は、将来の気候保護の重要なテクノロジーになる可能性があります。したがって、このテクノロジーをさらに産業化し、経済的に実行可能にすることが不可欠です。
風や日射の強い地域のグリーン電力によるE-フューエルの現地生産
風力と太陽エネルギーから電力を生産するための、経済的および生態学的に最適な地域は、主に風や日射の強い海岸の近くにあります。このような地域は、モロッコ、アラブ首長国連邦(UAE)、南アフリカ、南米のチリ、オーストラリアなどに見つけることができます。そのような発電所では、中央ヨーロッパに比べて3、4倍効率よく電気を生み出すことができると推定されています。電気を消費者に送電する際にその送電距離が長いと、費用がかかるうえに大きな損失が発生します。したがって、風力および太陽エネルギーが豊富な場所に専用の再生可能発電施設を建設し、そこでE-フューエルを生産することは理にかなっています。こうした理由により、風力発電所や太陽光発電所は、E-フューエルを生産する化学プラントに直接統合されます。ケーブルを介した高価で複雑な送電の必要がないため、4倍をはるかに超える電気料金のメリットが得られます。さらに、保存や輸送などの液体燃料の長所を最大限に活用し、パイプラインや船で全世界にCO2ニュートラルのエネルギー源を供給することができます。中央ヨーロッパでは状況が異なります。ここでは、風力や太陽光発電システムから生成された電気は、電気の状態のほうがより効率的に使用することができます。送電線を介した配電、バッテリーへの保存、電気自動車での使用は、E-フューエルを介した場合よりもはるかに効率的です。したがって、エネルギー生産と需要の間の地理的な距離に応じて、さまざまなアプローチが可能です。
E-メタノールによる一般使用に適した低エミッション燃料へ
E-フューエルの製造プロセスは、E-メタノールの製造から始まります。つまり、水素とCO2から。触媒を利用するプロセスを含め、さまざまなプロセスがこれに使用されます。このE-メタノールは、化石原油や天然ガスから作られるメタノールのグリーン代替として、世界中の多くの産業部門で直接使用することが可能です。メタノールからガソリン(MtG)プロセスとして知られるたったひとつの合成ステップで、E-メタノールからさらにE-フューエル(E-ガソリン)に処理されます。さらに改良することで、この燃料はスーパー無鉛ガソリンに匹敵する高オクタン価を達成し、従来のすべてのガソリンエンジンで使用することができます。
再生可能エネルギーのみを使用してE-フューエルを製造する場合、走行中の純粋なエンジン搭載車とプラグインハイブリッド車から排出される化石CO2を大幅に低減することができます。これは、車両プール全体に適用されます。入手しにくい場合、最初は従来の燃料と混ぜて使用し、のちにE-フューエルのみを使用することも可能です。さらに、燃料の保存と輸送についても既存のインフラを引き続き使用することができます。E-フューエルを合成的に製造することで、CO2排出量を低減して効率を高める特性を備えた燃料を開発することも可能になります。たとえば、E-フューエルは、汚染物質を含まないため燃焼がよりクリーンになり、石油ベースの燃料よりも汚染物質や細かい粉塵の排出が少なくなります。つまり、E-フューエルを使用するだけで、多くの既存のエンジンから粒子などの未処理の排出物を大幅に低減することができます。
※車両および充電インフラの仕様は日本と異なる場合があります。