息をのむような加速度値、スポーツカー特有のトラクション、そして連続的に利用可能な優れた出力。どれも真のスポーツカーであれば、備えていなければならない特徴です。
以下はテクニカルデータの概要です。
タイカンは、ブレーキペダルを踏み込んで、ドライビングモードを入れると始動します。スイッチを押してこれを行うこともできます。従来のポルシェ モデルのイグニッションロックと同様に、パワーボタンはステアリングホイールの左奥に配置されています。
電気モーター:ヘアピン巻線による同期モーター
後輪駆動モデル、タイカンのドライブアーキテクチャーは、リアアクスルの永久励磁同期モーターと、他のモデルと同様の2速トランスミッションで構成されます。
タイカン4S、タイカンターボ、タイカンターボSは、フロントアクスル上に1基、リアアクスル上に1基の合計2基の非常に効率的な電気モーターを搭載しており、4輪駆動されます。永久励磁同期モーターの高効率によって車両の航続距離と連続出力の両方にメリットをもたらします。電気モーター、トランスミッション、パルス制御インバーターは、それぞれコンパクトなドライブモジュールに統合されています。リアアクスルモジュールはアクスルと平行に取り付けられています。ラゲッジコンパートメントの容量を増やすために、「バルコニーソリューション」方式でここにパルス制御インバーターが取り付けられています。フロントアクスルモジュールは、同軸デザインによって、車両フロントの非常に狭いスペースに統合されています。
永久励磁同期モーターは、自然磁場を生成する高品質の永久磁石を備えたローターを装備しています。このローターはステーターの回転磁界と同期して動くため、永久励磁同期モーターとして知られています。パルス制御インバーターがステーターの回転磁場の周波数を決定し、ローターの速度を設定します。その構造、機能性、優れた熱挙動により、永久励磁同期モーターは、ポルシェ特有の高出力性能を提供することができます。
タイカンの電気モーターの特徴は、ヘアピン巻線で、ステーターのソレノイドコイルが円形ではなく長方形のワイヤーで構成されています。ワイヤーは曲げられており、ステーターの積層鉄心に挿入される前は、その形状がヘアピンを彷彿とさせるので「ヘアピン」と呼ばれています。開放端はレーザビームを用いて互いに溶接されます。ヘアピン技術の製造工程は複雑ですが、それはワイヤーをより高密度に詰め込むことを可能にしてステーターの銅の量を増加させます。従来の巻線工程は約45~50%の銅充填率を備えますが、この場合は70%弱です。これによって、容積は同じまま出力とトルクが増加します。タイカンのような高性能自動車のさらに重要なメリットは、ヘアピンステーターを効率的に冷却できることにあります。
フロントアクスルの水冷式同期モーターの有効長は160mm、有効径は190mmです。タイカン4Sのリアアクスルの同期モーターは、他のモデルよりコンパクトで、有効長130mm、有効径245mmです(タイカンターボとタイカンターボS:有効長210mm、有効径245mm)。つまり、これらのモジュールは、今日の市場の全てのエレクトリックパワートレインの中で最も高い電力密度(パッケージスペース1リッターあたりのkW)を備えます。
パルス制御インバーター:モーターの制御
パルス制御インバーターは、電気モーターを制御するための最も重要な部品です。タイカンでは、パルス制御インバーターがフロントおよびリアアクスルの各ドライブモジュールに取り付けられています。パルス制御インバーターは、パフォーマンスバッテリープラスから供給される直流を電気モーターの駆動に必要な交流に変換します。制動時には逆のことが起こります。ここでは、回生時に得られた交流をバッテリー充電用の直流に変換します。タイカンターボSでは、最大600Aのパルス制御インバーターがフロントアクスルに使用されています(タイカン4Sとタイカンターボ:300A)。全モデルのリアアクスルに、最大電流600Aのパルス制御インバーターが取り付けられています。両方のパルス制御インバーターは、約98%の非常に高い効率で作動します。
動力伝達:ポルシェ特有の2速トランスミッション
フロントアクスルでは、電気モーターの出力は、統合されたスパーギア軽量ディファレンシャルに対して、全体の比が約8:1の同軸のコンパクトな1速プラネタリーギアを介してフロントホイールに伝達されます。
リアアクスルに取り付けられた2速トランスミッションは、ポルシェが開発したイノベーションです。1速は、静止状態からの発車時にタイカンにさらに大きな加速を与えます。一方、ロングレシオの2速は高速走行時にも高い効率とパワーの維持を保証します。
2速トランスミッションは3本のシャフトに基づいています。技術的には2速のギア比を表す2つのスパーギア段に加えて、シフト可能なプラネタリーギアセットも使用され、非常に短いレシオの1速によるリダクションを可能にします。モーターのおよそ15回転がホイールの1回転を表します。これによって、静止状態から息をのむような加速を可能にする非常に大きなホイールトルクが得られます。
1速は主にスポーツおよびスポーツプラス ドライビングモードで使用されます。ローンチコントロールもこれらのモードで利用可能です。トランスミッションは比較的長い時間1速に留まり、その後、シフトオーバーブーストで2速にシフトします。
2速は、フロントアクスルのトランスミッションと同じ約8:1のレシオです。つまり、電気モーターの8回転がホイールの1回転を表します。これによって、スポーツカー特有の最高速度と高速走行時の加速性能が可能になります。リアには、可変リミテッドスリップディファレンシャルがオプションで用意されています。
回生:高水準のエネルギー回収
エンジン搭載車の場合、運動エネルギーは、ブレーキング中、ブレーキ部分において熱に変換されます。電気自動車では、この運動エネルギーの大部分を回収し、減速時に電気モーターをジェネレーターとして使用し、発生した電力をバッテリーに供給することが可能です。
タイカンにおいて、ポルシェは以下のパラメーターの範囲内で独自のアプローチをします。
- 最大265kWの潜在的な回生出力は、他のほとんどの競合他社を大幅に上回り、最大0.39Gの減速が回生されます。
- タイカンは、アクセルペダルを放すと、できる限りコースティングするように設計されています。利用可能な運動エネルギーは、走行のために確保されます。
- ブレーキペダルを踏んだときにのみ回生が行われますが、前述のように、非常に高レベルのエネルギーが回収されます。
ドライバーは、主にブレーキペダルを介して回生を制御するプログラムによって、バッテリーの充電と温度に依存しない再現可能かつ予測可能な減速挙動を経験します。走行テストでは、タイカンの最大265kWの高い回生出力によって、日常使用におけるブレーキ操作の約90%が、ホイールブレーキを作動させることなく電気モーターのみによって実行されることがわかりました。このため、ポルシェは初めて、ブレーキパッドの使用年数による交換時期を規定しています。ブレーキパッドは6年ごとに交換する必要があります。
ドライビングモード:長い航続距離または最高のスポーツ性を自由に選択
ニュータイカンのドライビングモードのプロファイルは、基本的に他のポルシェ モデルシリーズと同じフィロソフィーに従います。純粋なエレクトリックドライブの可能性を最大限に活用する専用の設定によってこれが補完されます。レンジ、ノーマル、スポーツ、スポーツプラスの4つのドライビングモードの利用が可能です。さらに、特定のシステムは、必要に応じて「インディビジュアル」モードに設定することができます。スポーツクロノパッケージがスポーツプラスとインディビジュアルモードの要件であり、モードスイッチはステアリングホイールに統合されています。
レンジ:
レンジモードにすると、タイカンは特に効率的に走行します。最高速度は90~140km/h(調整可能)に制限されますが、アクセルペダルを踏むことで常にオーバーライドすることができます。このモードでは、4輪に対して駆動力が最も効率的に配分され、前輪のみで駆動される場合もあります。クーリングエアフラップ、シャシーの高さ(-20mm)、リアスポイラーは最小の空気抵抗に設定されます。エアコン、油圧ポンプ、エアサスペンション、ヘッドライトも最も効率的な設定で作動します。
ノーマル:
この基本設定にすると、タイカンはリニアベースで出力を供給します。4輪全てが効率モードで駆動されます。クーリングエアフラップは必要な場合にのみ開き、リアスポイラーは速度に応じて調整され、シャシーは必要に応じて下がります。クライメートコントロールとアダプティブクルーズコントロールは制限なしで作動し、エアサスペンションは完全な快適性を提供します。
スポーツ:
スポーツおよびスポーツプラスモードにすると、パワートレインの最高の性能を利用することができます。ドライバーの要求はダイナミックに実行されます。4輪駆動は、リアに偏った配分に変わり、ダイナミックに制御されます。バッテリーの冷却と加熱のプログラムは、パフォーマンスに設定されます。クーリングエアフラップは、必要な冷却性能に応じて熱的に制御され、リアスポイラーは速度に応じて制御されます。クライメートコントロールは制約なく調整され、アダプティブクルーズコントロールはよりダイナミック(パワフルな加速を含む)な設定になります。コーナリングライトの機能性も同様です。エアサスペンションは、速度に応じて最大22mmまで車高を下げて、リアアクスルステアリングを含むサスペンションはスポーティーなセットアップに調整されます。
スポーツプラス:
スポーツプラスは、ドライビングスタイルにさらにダイナミックな表現を加えます。バッテリーの冷却と加熱のプログラムは、最大限のパフォーマンスに設定されます。クーリングエアフラップは開き、リアスポイラーは揚力を迅速に抑えるために展開します。リアアクスルステアリングとPDCCを含むシャシーのセットアップは、サーキットのパフォーマンスを最大限に高めるために最適化され、シャシーの高さは常に最低位置(-22mm)に保たれます。
パワートレインで利用可能な全てのシステムは、ポルシェパワートレインコントローラーによって制御されます。全ての情報がここで収集され、高速アクチュエーターが制御されます。4輪駆動とトラクションコントロールシステムは、従来のシステムの5倍の速度で作動します。例えば、片方のホイールのスリップが大きい場合、電気モーターがそれを超高速で調整します。これは、積雪や氷結の路面で特に大きな効果を発揮します。
ドライビングパフォーマンス:常に圧倒的
エレクトリックパワートレインは、応答性の高い加速が可能です。ポルシェは、これを何回も連続して行うことができることを約束しています。つまり、タイカン4Sは、静止状態から100km/hまで4.0秒という優れた加速タイムを10回連続して問題なく再現することができます。この加速性能は、高速走行時にも印象的です。ニュータイカンは、例えば、複数のコーナーから長いストレートに加速する場合などに、性能を低下させることなく何回も連続してパフォーマンスを発揮することができます。
ローンチコントロール:全速力で加速
タイカンに標準装備されるローンチコントロールは、静止状態からの最大の加速を可能にし、電気モーターがより多くの電力供給を受ける2.5秒間のオーバーブースト機能を使用します。タイカンターボSでは、この間に560kWの出力供給(最高出力460kWを超えて)を受けることができます。